東京都健康長寿医療センター研究所が5令和5年5月に、「老化による筋力低下に、交感神経が関わることを発見」とする研究成果を公表した。
発表内容の概要(抜粋)
ラット後肢の筋力の維持には、筋収縮をきっかけとした交感神経の反射性活動が寄与することを最近明らかにしました。筋収縮と交感神経の間のフィードバック機構が、老化によって低下する可能性を調べたところ、老化ラットでは筋力における交感神経の寄与の程度が、若いラットよりも少なくなっていることがわかった。その一方で、老化ラットでは運動神経とは関係ない交感神経性の筋緊張がおこりやすくなっていることを見つけた。つまり、老化ラットの交感神経では、運動神経をサポートする働きが衰えるだけでなく、単独で筋緊張をおこすようになる。これらの変化は、老化による筋力低下と運動機能の低下の原因の一端を説明する発見となった。
研究の背景(抜粋)
老化は、四肢の筋量、筋力、運動機能が著しく低下する進行性のサルコペニアを伴う。サルコペニアは日常生活に支障をきたすだけでなく、死亡リスクを倍増させるため、取り組むべき重要な課題となっている。筋力は筋量に依存するが、サルコペニアでは、筋量の減少に比べ、筋力の減少の程度が大きいことがわかっている。このような筋量と筋力の乖離の原因は不明だが、筋が硬くなることや神経性調節機能の低下が関与すると考えられている。後肢筋は、交感神経の豊富な支配を受ける。これまでに、後肢筋の収縮によって誘発される交感神経の反射性活動が、その収縮力をサポートするという骨格筋と交感神経の間のフィードバック機構を明らかにした 。このフィードバック機構は運動神経のはたらきを助けるため、この機構が低下すれば、高齢者の筋力低下につながる可能性がある。
研究成果の概要(抜粋)
後肢への交感神経の切断や刺激によって交感神経活動を変化させると、運動神経刺激に伴う後肢筋の収縮力が変化すること、その作用には老若に関わらずα型とβ型の両方のアドレナリン受容体が関与することがわかった。しかし、交感神経切断による筋力の低下率は、老化ラットでは若いラットの半分になっていた。そしてその低下の程度は、筋萎縮の程度と相関していた。つまり、筋萎縮が進むほど、交感神経の寄与率が低下していた。逆に、交感神経のみを刺激した時にしばしば見られるαアドレナリン受容体を介した筋緊張の増加は、老化ラットで増大していた。
研究の意義(抜粋)
骨格筋と交感神経の間のフィードバック機構の加齢による低下は、高齢者のサルコペニアを加速する要因であると考えられる。交感神経の興奮のみで生じる筋緊張の増加は、多くの高齢者に見られる筋硬直や深部痛の発症に関係している可能性がある。収縮筋と交感神経の間のフィードバック機構の低下は、筋萎縮の程度と相関していたため、運動による筋萎縮の予防や回復が、筋と交感神経の間のフィードバック機能の回復に役立つと考えられる。交感神経による筋力の調節は、運動神経の機能を助けると考えられるが、交感神経の興奮のみによる筋緊張は、運動神経の働きを邪魔する可能性がある。加齢に伴う運動機能の低下には、交感神経によるサポートの低下と交感神経による筋緊張の発生の増加の両方が関係していると考えられる。