歯の病気と健康について

目次

歯の病気(抜粋)

歯周病

歯周病は、歯の周囲の汚れ(プラーク)のなかに含まれる細菌の毒素で歯ぐき(歯肉)に炎症が起き、歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていく病気です。

とくに初期の段階では自覚症状がほとんど出ないので、歯科医療機関での検査を受けないと正確な診断を行うことはできません。歯周病の精密な検査は、プローブという針状の器具を使って歯周ポケットの深さを調べるプロービング検査、エックス線写真によって歯を支える骨の状態を調べるレントゲン検査、歯周病の原因となる歯の周囲の汚れ(プラーク)の付着状況を調べる検査などからなります。

むし歯

むし歯は世界で最も多い疾患として知られており、未治療のむし歯は日本でも多くの人に存在します。さらに近年は高齢者において、むし歯は増加しています。むし歯は細菌が糖質をもとに作り出す酸が歯を溶かすことで生じます。唾液は酸を中性に近づけたり、溶けかけた歯を修復する役割を持ちます。多くのむし歯は歯の間や奥歯の溝から発生し、特に溝の細菌は歯磨きでは取り除けません。そのため歯磨きをしていればむし歯が防げるという常識は現在では正しくないことが分かっています。さらに生物医学的原因だけでなく、社会環境・生活環境の重要性が認識されつつあります。

むし歯の原因・進行

歯の表面のプラーク(歯垢)の中には細菌が存在します。細菌は飲食物の中の糖分を摂取・分解して酸を出します。この酸により歯は溶かされます(脱灰)。人の唾液は、酸を緩衝して中性に近づけることで歯を守ります。また唾液は、カルシウムやリン酸を含んでおり、これらが脱灰された歯を修復(再石灰化)します。糖分の摂取が頻繁で、酸の緩衝や再石灰化が間に合わずに脱灰された状態が続くと、その部分はそのうち崩壊することとなります。これがむし歯です。

むし歯により崩壊した歯質は、再石灰化等により自然に回復することはありません。むし歯の穴を埋めて修復する歯科治療が必要になります。また進行したむし歯では、歯の神経にまで細菌が達します。こうなると歯の神経を抜く大掛かりな治療が必要になります。さらに進行した場合には、歯の根元にまで細菌が達して病巣ができて、その結果歯肉から膿が出ることもあります。この場合歯を抜かなくてはならないこともあります。

むし歯の特徴

むし歯は極めて罹患率が高く、多くの人が生涯のうちに一度はかかる疾患です。痛みを伴い、自然治癒をしないため治療が必要になります。ゆっくりと進行し、小児に多発しますが、大人でもよく発症します[3]。

むし歯の治療は、崩壊した歯質を歯科材料で置き換えるのが主な方法であり、元の健全な歯に回復するわけではありません。そのためむし歯を数えるための代表的な指標であるDMF歯数では、むし歯やむし歯が原因で喪失した歯に加えて、治療済みの歯もむし歯としてカウントします。

むし歯が発生しやすい歯の部分は、臼歯の溝や前歯の裏側のくぼみの部分(小窩裂溝)・歯と歯の間(歯間部)・歯ぐきに近い部分(歯頚部)です。なぜならこれらの部位のプラークは除去することが難しいからです。特に臼歯の溝(小窩裂溝)は、歯ブラシの毛先が届かず、子供に発生するむし歯の8割以上がこの部位から発生しているという報告もあります[4]。またむし歯の治療に用いた歯科材料と歯との隙間に細菌が侵入して、詰め物の底の部分にむし歯ができることもあります。

歯ブラシの届く場所のむし歯は歯みがきで防げますが、最もむし歯になりやすい部位のむし歯は歯みがきでは防げません。こうしたむし歯の予防には、フッ化物の利用や小窩裂溝を埋めるシーラント、糖分の摂取制限が必要になります。

顎関節症とは(特徴・分類など)

顎関節症とは、顎(あご)の関節とその顎に関連する筋肉=咀嚼筋(そしゃくきん)の病気です。顎の関節と咀嚼筋の問題が混在しているため、混乱されることも多くなっています。咬み合わせが直接の原因ではありませんが、関節の位置などが咬み合わせによって変化するため、診断・治療には、咬み合わせがよくわかっている必要があります。

口臭の原因・実態(抜粋)

口臭の大部分は口の中に原因があり、その多くは舌苔(ぜったい)と歯周病です。全身疾患の兆候として現れる呼気経由の口臭もありますが、極めて限定的と考えて良いと思われます。口臭は自己識別が難しいこともあって、気にする人が多い一方で強いにおいを無自覚な人も多いという社会的な健康問題となっています。

口臭の治療・予防

口臭には生理的口臭と病的口臭がありますが、その原因はほとんどが舌苔(ぜったい:舌の表面につく白い苔状のもの)です。したがって舌の清掃による舌苔の除去が最も有効な予防法です。また何の自覚もないのに家族から口臭を指摘されるようになったら、歯周病が原因の可能性がありますので歯科医院での専門的な検査・治療が必要です。

口臭の原因物質

口臭の原因は、87%が口の中にあることが明らかにされています[1]。口の中にいる嫌気性菌という種類の細菌が、タンパク質やアミノ酸を分解して揮発性硫黄化合物(VSC: Volatile Sulfur Compounds)という物質を作ります。これが口臭の主たる原因物質です。口臭はVSCが増える原因により、生理的口臭あるいは病的口臭に分けられます。

生理的口臭の予防

VSCは舌の上で最も多く作られます。これは舌に白い苔状のものが付着するためです。これを舌苔といいます。したがって生理的口臭の予防のためには歯磨きに加えて舌清掃を行って舌苔を除去し、舌を清潔に保つことが最も効果的です。

舌苔のつき方には個人差があり、さらに同じ人でも時間帯や体調によってつき方が異なりますが、このような差がなぜ起こるのかはよくわかっていません。しかし寝たきりで食物の経口摂取が困難な患者さんや健康な人でも起床時や絶食時などにその量が多くなる傾向があるようですから、咀嚼・嚥下活動やそれに伴う舌の運動や唾液の分泌量と大きく関係していると考えられます。

さらに口臭の一日の変動リズムも食事のリズムとよく対応しています。したがって舌清掃は朝起きてすぐに行い、食事は毎日規則正しくとり、よくかんで食べるようにしてください。

*舌清掃の方法

舌清掃は、毛先の柔らかい小児用の歯ブラシや目の粗いタオルなどを使ってもかまいませんが、専用の舌ブラシを使うとより効果的です。イラストを参考に以下の手順で行ってください。

1.鏡を見ながら舌を思いきり前に突き出して、舌の後方に舌苔がついていないか確認してください。

2.舌ブラシを鏡で見える最も奥に軽くあて、手前に引いてください。決して力を入れ過ぎないようにしてください。またこの時に息を数秒間止めながら行うと、嘔吐反射が出にくくなります。

3.舌ブラシの先を水道の水でよく洗い、舌ブラシの先に汚れ(舌苔)がついてこなくなるまで、1.~2.を繰り返してください。

一日の舌清掃の回数は、起床時の一回で結構です。それ以上行うと舌の粘膜を傷つけるおそれがあります。また舌に傷や潰瘍があるときは、舌清掃を中止してください。

病的口臭の治療

口臭は健康な人でも強くなることがありますが、何らかの病的な原因があって口臭が強くなることがあります。これを病的口臭といいます。その代表的なものが歯周病です。それは歯周病の原因の多くがVSCを作る嫌気性菌であるからです。歯周病の他には、大きなむし歯や粘膜の潰瘍などが原因となることがありますが、これらの病気と異なり、歯周病はほとんど痛みもなく進行していきます。したがって何の自覚もないのに家族から口臭を指摘されるようになったら、一度歯科医院を受診して歯周病の検査を受け、専門的な治療を受けることで改善します。

一方口の中以外では、副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)や、ごくまれに肝臓病や腎臓病などの全身疾患が原因となって口臭が強くなることがありますが、これらは口臭以外にも何らかの自覚症状が現れることがほとんどですから、あまり考えなくてもよいでしょう。

高齢者への対応(抜粋)

口腔機能の健康への影響

口腔は食事や会話、容姿といった人と人とのつながりや言語、非言語的コミュニケーションに欠かすことができない重要な役割を担っています。口腔機能が低下すると食べられる食物の種類や量が制限されるので、栄養のバランスがとりにくくなり、食事の質が悪くなるため、免疫や代謝といった機能の低下から病気にかかりやすく、治癒しにくくなります。

口腔機能の低下と寝たきり・認知機能の低下の関係

口腔機能の低下によって食事や会話に支障をきたすと、対人関係に困難を感じるようになり、外出や外食をしなくなったりして、社会とのつながりが減少していきます。また、口腔機能の低下によって口の周りの筋肉が少なくなり動きも悪くなると、容姿や表情が損なわれ、言語的・非言語的コミュニケーション能力が低下します。すると人とのつながりを良好に保つことが困難になり、閉じこもりがちになったり、買い物や交通機関の利用などといった知的能力を必要とする活動も減少し、身体的・精神的にも活動が不活発になり、寝たきりや認知機能低下のリスクが増加することになります。

口腔機能と健康との関係は

口腔機能が低下すると食欲も低下し、栄養が偏り不足するようになります。その結果、筋量や筋力が減少し、免疫、代謝といった機能も低下します。筋力が落ちると運動機能が低下し、不活発な生活となり、代謝も低下するため、食欲がいっそう低下し、さらに栄養が偏り不足していくといった悪循環が生じます。また免疫機能が低下すると様々な病気にかかりやすくなります。特に高齢者では肺炎などの感染症を繰り返し、寝たきりになることもあります。

歯間ブラシの使い方
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-09-002.html
デンタルフロスの使い方
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-09-001.html

出典:生活習慣病予防のための健康情報サイト「厚生労働省e-ヘルスネット」より

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