喫煙者本人の健康への影響
喫煙はがんをはじめ、脳卒中や虚血性心疾患などの循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や結核などの呼吸器疾患、2型糖尿病、歯周病など、多くの病気と関係しており、予防できる最大の死亡原因であることがわかっています。
また、喫煙を始める年齢が若いほど、がんや循環器疾患のリスクを高めるだけでなく、総死亡率が高くなることもわかっています。
女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響
女性の喫煙による妊娠出産への影響として、早産、低出生体重・胎児発育遅延などが挙げられます。また生殖能力低下、子宮外妊娠、常位胎盤早期剥離、前置胎盤を引き起こす可能性が指摘されています。さらに、妊娠中においては、妊婦本人の喫煙(能動喫煙)だけでなく受動喫煙であっても、乳幼児突然死症候群(SIDS: Sudden Infant Death Syndrome)の要因となることが確実視されています。
喫煙によるその他の健康への影響
喫煙によって、病気による休業、手術の際の創傷部位の治癒の遅れや術後の呼吸器合併症の増加、骨粗鬆症や大腿部 頚部骨折の増加、消化性潰瘍、歯周病、白内障や失明の原因となる加齢性黄斑変性を引き起こすもとにもなります。
喫煙によって、全般的な健康状態の低下や喫煙関連の病気にかかり、休業する原因ともなります。会社にとっては喫煙者を雇用することで、勤務時間中の喫煙や休業により、労働生産性の低下につながることが明らかになっています。
また喫煙していると、外科手術を受けた際に創傷部位の感染や壊死、表皮の剥離などによって治癒が遅れたり、術後の呼吸器合併症が増加します。
喫煙は骨密度の低下を進めるため、骨粗鬆症や骨折にも関係しています。特に閉経後の女性において、その関係は十分な科学的な証拠があります。高齢男性についてもその可能性が指摘されています。また、骨粗鬆症などを介して大腿骨頚部骨折などの骨折を引き起こすもとにもなります。
喫煙は歯周病の原因にもなります。また歯の変色・根面う蝕・歯の喪失にも関係しています。
眼に対する影響としては、白内障の原因となるほか、高齢者では失明の原因として重要な加齢性の黄斑変性を引き起こします。さらに喫煙すると消化性潰瘍にかかりやすくなりますが、特にヘリコバクターピロリ陽性の人では確実にその影響が認められています。
男性においては、勃起障害のほか、精子の変形や運動性の低下・数の減少、不妊を引き起こす可能性が指摘されています。そのほかにも免疫機能を低下させ、感染に対する抵抗力を低下させるため、インフルエンザや肺炎などの感染症にかかりやすく、重症化しやすいことが報告されています。
受動喫煙 – 他人の喫煙の影響
喫煙者が吸っている煙だけではなくタバコから立ち昇る煙や喫煙者が吐き出す煙にも、ニコチンやタールはもちろん多くの有害物質が含まれています。本人は喫煙しなくても身の回りのたばこの煙を吸わされてしまうことを受動喫煙と言います。
受動喫煙との関連が「確実」と判定された肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群(SIDS)の4疾患について、超過死亡数を推定した結果によると、わが国では年間約1万5千人が受動喫煙で死亡しており健康影響は深刻です。
若者の健康と喫煙
喫煙開始年齢が早いほど、健康被害が大きく、またニコチン依存も強くなります。このため、成人年齢が18歳に引き下げられても、法的に喫煙できる年齢は20歳が維持されています。また、健康への悪影響が大きい子どもや若者をたばこの煙から守るため、2020年に施行された改正健康増進法では、喫煙できる場所への20歳未満の者の立ち入りが禁止されるなどの対策が講じられました。
加熱式たばこの健康への影響
たばこ葉やその加工品を電気的に加熱し、発生させたニコチンを吸入するたばこ製品。紙巻たばこに比べて健康影響が少ないかどうかは、まだ明らかになっていない。
たばこ葉やたばこ葉を加工したものを、燃焼させずに電気的に加熱し、エアロゾル(霧状)化したニコチンと加熱によって発生した化学物質を吸入するタイプのたばこ製品です。わが国では2013年12月から販売が開始され、2016年ごろから急速に普及してきました。
加熱式たばこは、喫煙者本人及び周囲への健康影響や臭いなどが紙巻たばこより少ないという期待から、使い始める人が多くいます。化学成分を分析した結果からは、加熱式たばこの主流煙には、多くの種類の有害化学物質が含まれるものの、ニコチン以外の有害化学物質の量は少なかったと報告されています。しかし、販売開始からの年月が浅いため、長期使用に伴う健康影響は明らかになっていません。
また、量が少ないとしても、たばこ煙にさらされることについては安全なレベルというものがなく、喫煙者と受動喫煙者の健康に悪影響を及ぼす可能性が否定できないと考えられています。